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【論文】高山型スカシシリアゲモドキの並行進化

論文

論文が公開になりました。正確には一ヶ月半ほど前に Accepted Article として先行して公開されていましたが、この程、正式なジャーナルの体裁が整った形で公開になりましたので、内容をちょっとだけ紹介しておきたいと思います。論文を掲載していただいたのは米誌「Molecular Ecology」。Impact Factor (2019年6月現在) は 6.131 です。よくわからない人もいるかと思いますが、分子生態学分野でよく引用される雑誌の上位10%程度にランクしている雑誌です。つまり、とてもいい雑誌に論文を掲載していただけた、ということです (色々と運がよかったのですが…)。

Tomoya Suzuki, Nobuo Suzuki, Koji Tojo (2019) Parallel evolution of an alpine type ecomorph in a scorpionfly: independent adaptation to high-altitude environments in multiple mountain locations. Molecular Ecology. DOI: https://doi.org/10.1111/mec.15119




この研究はスカシシリアゲモドキ Panorpodes paradoxus (シリアゲムシ目, シリアゲモドキ科) という昆虫を扱っています。スカシシリアゲモドキは本州・四国・九州の広域に分布する昆虫で、基本的に山地に生息しています。

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スカシシリアゲモドキのオス

オスはこんな感じのオレンジ一色なのが普通。

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スカシシリアゲモドキのメスの色彩多型いろいろ

メスは色々な色彩変異があります。全部同種のスカシシリアゲモドキのメスです。

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「翅の短い」スカシシリアゲモドキのメス

それから、この論文に関わるのがこの「翅の短い」メスです。翅の短いメスは中部山岳域や八甲田山 (青森県) といった限られた地域の高標高域 (翅の長い普通のタイプが出現するよりも高い標高帯) でしか出現しません。また、翅が短いのは高標高に生息するメスだけなのですが、翅の短いメスが出現する地域では形態的に翅の長い普通のタイプと識別可能なオスが出現することが知られていました。

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「翅の短い」スカシシリアゲモドキのメスと同所的に発見されるオス

普通のスカシシリアゲモドキのオスは翅に模様が入ることはほぼないのですが、このオスは微妙な模様が入ります。また、交尾器の形態も普通のオスと若干異なっています (市田・中村, 1991)。このことから、この論文では低い標高帯で見られる翅の長いタイプを「普通型 general type」、高標高域で見られるメスの翅が短いタイプを「高山型 alpine type」として扱いました。そしてこの「普通型」と「高山型」はもう別種なんじゃないのか?ということが言われていました (市田・中村, 1991)。

そこで、遺伝子を比較したら別種だということが示せるのではないか?ということで分子系統解析を始めたのがこの研究のスタートでした。それから、研究を進めていくにつれて、ついでに日本列島産のシリアゲモドキ属 Panorpodes 昆虫の進化史も解き明かしてしまおう、という流れになり、無事に論文化することができました。この研究を始めたのは僕が修士一年生の頃 (約10年前)。僕はコオイムシ類の分子系統解析を中心とした研究で学位を取得させてもらいましたが、実は分子系統解析を始めたきっかけはこのシリアゲモドキの研究でした。


日本のシリアゲモドキ類はどこから来たのか?

まず、日本産シリアゲモドキ属昆虫の進化史について。ミトコンドリア遺伝子 (COI, COII, 16S rRNA領域) と核遺伝子 (EF1-α, 28S rRNA領域) を解析したところ日本産シリアゲモドキ属昆虫の祖先は大陸にいて、約800万年前に大陸-日本列島間で遺伝的に分化したことが示唆されました。また、西日本に生息するヒメシリアゲモドキとシリアゲモドキ属の未記載種 Panorpodes sp. が日本産シリアゲモドキ属昆虫の中では祖先的な系統であったことから、日本産シリアゲモドキ属昆虫の祖先は大陸から形成初期の日本列島に分散してきて、その後、約600万年前以降に種分化しながら日本列島を北上していったと考えられます。

分岐年代推定結果
(a) ソフトウェア BEAST を用いた東アジア産シリアゲモドキ属昆虫のミトコンドリア遺伝子 (COI, COII, 16S rRNA領域) および核遺伝子 (EF1-α, 28S rRNA領域) に基づく分岐年代推定結果. 日本列島内では西日本に棲息するヒメシリアゲモドキと Panorpodes sp. が祖先的であることを示す結果が得られた. (b) 約600万年前の日本列島と、分子系統解析結果から予想される分散経路. シリアゲモドキ類は日本列島内で種分化しながら北上していったと考えられる. (c) 現在の東アジア産シリアゲモドキ類各種における分布域.


高山型スカシシリアゲモドキは別種か?

この研究を始めた当初はスカシシリアゲモドキの普通型と高山型は別種で、分子系統解析をしたら普通型と高山型で大きく遺伝的に分化しているだろうと予想していました。この場合、下図のように普通型と高山型がそれぞれ単系統群を形成する結果が得られるはずです。

もし別種なら…
普通型と高山型が別種であったときに予想される結果.


そして実際に得られた結果が下図になります。

結果
ソフトウェア BEAST を用いたスカシシリアゲモドキのミトコンドリア遺伝子 (COI, COII, 16S rRNA領域) および核遺伝子 (EF1-α, 28S rRNA領域) に基づく分岐年代推定結果. 普通型と高山型はそれぞれ単系統にはならず、各系統が入れ子状になる.


このように普通型と高山型はそれぞれ単系統にはならず、普通型と高山型の系統が入れ子状になる結果となりました。また、高山型は八甲田山、浅間山系+南アルプス+八ケ岳、北アルプスがそれぞれ単系統となっています。この結果は、高山型は各山塊ごとに並行的に進化したということを示唆するものです。つまり、高山型はそれぞれの山塊で独立並行的に3回 (正確には八甲田山、浅間山系+南アルプス+八ケ岳は側系統群なので少なくとも2回) 進化したということになります。したがって、高山型は別種ではなく、高山の環境に適応した「生態型 (エコモルフ)」であると考えるのが妥当であるという結果が得られたわけです。当初予想していた結果とは全く違う結果となり、驚くとともに興味深い現象を明らかにすることができたので嬉しくもありました。

さらに詳細な議論に関しては論文を読んでいただければと思いますが、今後は次世代シーケンサーを駆使したSNPs解析や、普通型と高山型の遺伝子発現の差異、高山型の別系統間での遺伝子発現解析などを実施することで、どのような遺伝的基盤によって高山型が進化したのか?というところまで明らかにできると面白いと考えています。…しかし、それをするにはまだまだ乗り越えなければいけないハードルがたくさん。これを乗り越えられるようになったら、さらに良い論文が書けることと思います。

引用文献
市田忠夫・中村剛之 (1991) 青森県の長翅目. Celastrina. 26, 27-41.

HP TOMOYA SUZUKI WEBSITE

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

tag : 論文 Mecoptera 並行進化 分子系統解析

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Tomoya SUZUKI

Author:Tomoya SUZUKI
1985年10月生まれ
博士 (理学)

昆虫類の分子系統地理や種分化などについて研究しています。週末は山にいることが多いです。ここではほとんど山や生きものの写真を掲載します。たまに研究の話しも書く予定です。

HP: TOMOYA SUZUKI WEBSITE
2015年5月2日開設

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